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藤原央登
劇評家  
「時事問題の取り扱い方」
燐光群『ブーツ・オン・ジ・アンダーグラウンド』
2014年5月23日(金)~6月1日(日)@梅ヶ丘BOX


PHOTO©古元道広


  「5年越し」の上演はまさに満を持した快作だった。燐光群所属の演出助手・劇作家の清水弥生の作。現在の日本の政治問題を盛り込みながら、障碍者が健常者と同じ生活を送るとはどういうことかを問うた。作品タイトルは、イラク戦争時、日本に自衛隊派遣を求めるアメリカ側の「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」に由来している。演出は「R-vive」主宰・藤井ごう。

  今からおそらく数年先の日本が舞台。集団的自衛権の行使が容認され、自衛隊は米軍と共に海外で活動を行っている。そのため、自衛隊が行っていた国内の災害救助・人道支援活動は、「特別平和支援隊」が担っている。グループホームの地下にある部屋で生活する上崎翔(東谷英人)の元に、その召集令状が誤って届く。彼は事故によって四肢が麻痺し、車椅子生活を余技なくされた障碍者だ。障碍者でも人の役に立ち社会貢献へと繋がるような、自立した人間として生きたい。徴兵をかねてからの生き方を実現する契機と見た上崎は、周囲の反対を押し切って支援隊へ参加する。他の隊員の手助けを要しながらも、上崎はめざましい活躍を見せる。ついには海外訓練時、敵陣営の攻撃から身を守るため 、銃の引き金を引くにまで至る。帰国後、専守防衛によって隊を守った人物として、上崎は英雄視される。現在、集団的自衛権の行使が閣議決定されるか否かが問題となっている。民間人が徴兵され、戦闘地域で命の危険にさらされるかもしれない。そのような近未来への警句を感じさせる。

  ただ、この舞台の巧みさは政治的主張に徹していない点だ。劇の本質はあくまでも障碍者の自立に根ざしている。障碍者の自立の重要性を頭では了解していても、やはり健常者からすれば身体で了解することは難しい。嘘、他人事である。そこに、誰もが戦争に赴く世界という、もうひとつの「もしも」が重なることによって、虚構が正へと反転する。障碍者の自立を巡る問題を、いかに観る者の肌身に迫ったものとして突きつけるか。そのことを、人の役に立ちたいという思いが自己犠牲をいとわないナショナリズムへ容易に接続すること。そして、時の権力によって恣意的に扱われる個人を描くことで表現されている。演劇ならではのアクチュアリティの喚起と言えるだろう。それが最も発揮されているのは、海外訓練で銃撃された支援隊の一人・榎木遼介(武山尚史)の存在である。命に別状はなかったが、榎木は右手が不自由な障碍者となってしまう。戦争状態になれば、誰もが戦地へ送られ障碍者へと反転する可能性が生まれる。ここに、劇の内容が我々に無関係でないと思わせる核が宿っている。

  ラスト、国家の威信を喧伝するために設けられた記者会見場へ向かうため、上崎はホームの仲間の手を借りながら自らの足で立つ。仲間の命を守るという純粋な気持ちが起こした発砲行為であり、決して英雄でないことを自分の口で説明するために。地下から地上をキッと見据える上崎の姿に、思い入れを感じたのは私だけではないだろう。(5月29日(木)マチネ、梅ヶ丘BOX)



[artissue FREEPAPER]

artissue No.003
Published:2014/09
2014年9月発行 第3号
演出家インタビュー
INTERVIEW1 流山児祥 流山児★事務所
INTERVIEW2 J・A・シーザー 実験演劇室◎万有引力


 
「戦後アメリカ前衛演劇の軌跡」 戸谷陽子
「Cui?公演から見えてくる母性の欠如」 水牛健太郎
「時事問題の取り扱い方」 藤原央登

 
「前衛芸術が更新するもの」 櫻井拓見 / chon-muop
「裸の理論武装」 カワムラアツノリ / 初期型