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九鬼葉子
演劇評論家・大阪芸術大学短期大学部准教授   
「維新派の旅は「死者」に始まり、「聖女」で終わった」




©井上嘉和


  主宰の松本雄吉逝去に伴い、維新派が解散、最終公演『アマハラ』を奈良市の平城宮跡で行った(10月13日所見、松本雄吉脚本・構成、内橋和久音楽・演奏)。
  おもに名詞を羅列する独自の音楽劇「ヂャンヂャン☆オペラ」を展開、公演ごとに風景を巻き添えにし、自らの手で大規模な野外劇場を建設する。変拍子のリズムに乗せ、疾走する少年達を中心にした身体表現で知られるが、キャラクターから演劇性を語られることは少ない。最終公演では、特に後半、女性像が鮮烈な印象を刻んだ。初期の頃からの人物像を振り返りたい。
  70年、日本維新派結成。初期は「死者」を描くことが多かった。特に82年から83年まで、堺市の稽古場、化身塾で6回行われた化身塾饗演シリーズは、墓がテーマ。おどろおどろしく、裸体に白塗りか金粉。発声法も「吸気」を主軸にした独特なもの。化身塾シリーズの原作は、亀山孝治の『青天の飾り』。台詞には講談や浪曲も取り入れた。83年12月には国鉄大阪駅コンテナ基地跡で極寒野外公演『月光のシャドウボール』を行う。高橋章代など妖艶な女優もいたが、池内琢磨や藤條虫丸ら屈強な男優達の印象が強かった。開幕時、精悍な若い男優・山下義彦が一升瓶を持ち、強い目力で夜空を見上げる。そして一升瓶を片手で持ち上げ、水を一気に飲み干し、すべて吐き出すところから始まる、男臭い荒業の舞台だった。
  日本維新派時代は俳優の強い個性が際立つ芝居作りだった(70年代後半以降、特権的肉体の俳優、個としての肉体性は必要ないのではないか、と、松本は考えていたようだが、それでも客席から見ていると、俳優一人一人の個性とエロス、肉体性が際立って見えた。特に池内琢磨の官能的な肢体は鮮烈で、30年以上前の舞台姿を、私は今も忘れることができない)。その後、87年に維新派と改名後は、少年を主軸に描き、次第に完璧なフォーメーションによる群像劇へと変化していった。少年を描く理由は「少年には『用事がない』からだ。人から要求されることもない。維新派は用事のない時間を作りたい」と、松本は語っていた(「劇の宇宙」18号)。 そして『アマハラ』。20世紀3部作のアジア篇『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』(10年)を再構成。松本が残した構成表、創作ノート、生前の打ち合わせを基に、劇団員による演出部が練り上げた。
  廃船をイメージした野外劇場。開演は、背後の生駒山に日が落ちる午後5時15分を設定した。貝や島の名前など、海にまつわる台詞に始まり、平城京の地理、そして欧州諸国によるアジアの植民地化の歴史が年代別に列挙され、ポストコロニアル的視座を明確にする。さらにマニラへの日本人移民の歴史、マニラ麻の栽培やベンゲット道路の建設などを、実在の日本人の個人史とともに叙述。そして、日本軍による各島の占領の歴史が語られる。
  「漂流」をモチーフに、トランクを持った人々や疾走する少年姿が現れるのは、いつものスタイルだが、今回は夏のワンピース姿の女性達が重要な場面を担った。松本が近年力を入れていた、聖女にも娼婦にも死者にも見える、多彩な表情を見せる不思議な女達。最後の場面は、彼女らを中心に展開。「うまれかわり、おまえがいい、あえるかな、おぼえていて」という台詞は、様々な感慨を生む。劇団員達が、彼岸の松本雄吉と交信しているのだろうか。あるいは、観客に対し、またいつか会おう、と言っているのか。劇団員達が解散後もそれぞれが新しい表現を生み出していくという決意表明だろうか。
  維新派は「死者」に始まり、女性達が力強く「うまれかわり」を宣言して終わった。
  ・・・マタアエルカナ、アイタイ、イシンハト。






[artissue FREEPAPER]

artissue No.008
Published:2017/02
2017年2月発行 第8号
 

  1.交錯する批評 OM-2『9/NINE』
      「沈黙と騒音」   北里義之
      「前衛劇であること/ないこと」   西堂行人
      「刻み続けるリズムによせて―OM-2『9/NINE』評」   宮川麻理子
      「我もまた父親殺しの共犯者―OM-2の『9/NINE』を観て」三宅昭良
  2.世界の演劇vol.2 台灣演劇の今
      「日本を越えたテント芝居」   林于竝(台灣)



 

「維新派の旅は「死者」に始まり、「聖女」で終わった」九鬼葉子
「転がる若人に苔は生えない」鈴木励滋
「弓と音楽」塚本知佳


 
「ここで生きていたい」波田野淳紘 / 820製作所
「演劇の「豊かさ」について」 萩原雄太 / 劇団「かもめマシーン」