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©熊谷直子

梁鐘譽インタビュー サムルノリ「三道農楽カラク」上演に向けて


    私の中で軸にしている舞踏は自分自身と距離をとること、自分で動くのではなく何かに動かされることが一番基本のあり方です。それが「三道農楽カラク」を聴いた時にどう距離をとればいいのか全くわからなくなり、考え抜く中、稽古場でほとんどカラダを動かせずに、ひたすら「三道農楽カラク」だけが流れていました。

――韓国ご出身の梁さんが現在大駱駝艦の舞踏手として活動されるようになった経緯についてお聞かせください。

梁鐘譽 小さい頃初めて出会った踊りが韓国舞踊でした。その後舞踊専門学校に進み大学院を卒業し、教える立場まで。その間振付家としてデビューもしてクリエイションに夢中になりました。だけど作品を発表する度に出る評価は、これって韓国舞踊?でした。(舞踏ぽいって言われたこともあります。当時は舞踏を知らなかったんですけどね)ジャンルって何?って深く考えるようになりました。何を韓国舞踊としていて何が韓国舞踊じゃないのだろう。ジャンルに縛られるのが嫌になりました。それから韓国舞踊からあえて離れ、色んなジャンルの仲間たちとユニットを作り活動していました。それがもう33歳ぐらいだったんです。その時「大駱駝艦」の韓国公演で麿赤兒さん振付・演出の舞踏作品「海印の馬」に出会いました。オープニングから気を失うほど圧倒されました。少しおかしい話かも知れませんが一族に出会えた感覚でした。「大駱駝艦」とは、麿赤兒とは、一体何モノだ?知りたい!と思い、故郷に全てをおいて日本に旅立ちました。それからもう10年と言う時間が、がアッという間に経ちました。

――梁さんが2013年に壺中天で発表した「ヨウヤ ヨウヤ」とはどのような作品だったのでしょうか。

 「ヨウヤヨウヤ」は大駱駝艦に入って4年目に創った作品です。韓国では振付家として活動していたので作品創作は全く初めてではなかったのですが、「大駱駝艦」での初の舞踏作品をどのように作ったらいいかとても悩みました。なぜかというと韓国でやっていた自分なりの踊りの世界観と麿さんから得た舞踏を織り交ぜた作品に、麿さんはどう感じるかとても心配だったからです。結局は色んなこと考えずに、一番自分らしく素直に身体と向き合った作品となりました。
麿さんから、私のルーツとキャリアを舞踏的手法に凝縮させた味わい深い作品で、ジョンエのあどけなくも戦慄的な立ち姿に胸を打たれた。と言う感想を聞きました。その感想は今も私の心に響いています。





        ©腰山大雅

――幼少期より韓国舞踊を学ばれていたとのことですが、梁さんは舞踏手および振付家として「伝統」というものにどのようなスタンスで向き合っているのでしょうか。

  私にとって伝統は100年前の今、200年前の今ですかね。100年前には評価されて無かったモノが今になって人々に評価され伝統になっているモノも沢山あります。そこが面白い。忘れられたモノがその時の人々の価値観や社会的な現象に沿って生まれ変わる。まさに我々が今やろうとしている何か新しい発見や発想が、つまり100年後は伝統になっているかもしれないです。始まりはアバンギャルドだった舞踏も半世紀を超え、どんな形としてかは分かりませんが時間が流れた分、現在の人々の主観的な価値観で伝統になるかもですね。それが伝統の根本だと思います。幼い頃から韓国舞踊をやっていたものですから自分は伝統の型を守る人なのか、新たな何かを生み出そうとしている人なのかどっちがしたい?と悩んでました。どちらもその精神を軸にしますが、私は韓国舞踊と言う伝統を守る側から新しいモノを産み出す側に立ちました。しかしその伝統のモノを学んだことは今やろうとしていることに深く関連していると、時間が経つほどに感じています。伝統と革新はどちらから進んでもきっとどこかで繋がっている道なのでしょうね。





        ©松田純一

――今回の作品について、お考えをお聞かせください。

  小さい頃から韓国舞踊をやっていて「サムルノリ」に合わせて踊ったりしたことはありますが、普段は祭りや正月にテレビとか広場、または劇場とかで聴くぐらいでしたね。それから来日して10年になりますが舞踏の世界に入ってからは「サムルノリ」に触れる機会はほとんど無かったです。そして、今回の依頼を受けた時、異国に住んでいる今の自分にとって、故郷の音楽はどんな風に感じられるか気になりました。それからテーマ曲の「三道農楽カラク」を聴きました。最初は最後まで聴くことが出来ませんでした。怖かったです。なんだか物凄く肌に近すぎる感覚。肌に近いのがなぜ怖い?って思うかもしれませが、今私の中で軸にしている舞踏は自分自身と距離をとること、自分で動くのではなく何かに動かされることが一番基本のあり方です。これは何かを表現することに客観性を持って向き合える力強い軸。それが「三道農楽カラク」を聴いた時にどう距離をとればいいのか全くわからなくなり、考え抜く中、稽古場でほとんどカラダを動かせずに、ひたすら「三道農楽カラク」だけが流れていました。そして故郷の音として自然とただそのモノを楽しんで来た私は産まれて初めて農楽って何モノなのか、その中身を知りたいと思いました。古代には音楽も踊りも歌も、全てのモノを神様に捧げる儀式として行われた。この農楽も。それからふっと思ったのは、今は儀式なんかしないし、神様の存在は忘れられている時代だな。神様はもう呼ばれなくなって、今はどうしているかなと。それから街にいるホームレスやその境界線にいる人々の中に神様がいるかも知れない、と妄想し始めました。

この作品は
名前を失くしたモノ
呼ばれなくなったモノ
忘れられたモノの物語です。
忘れてはいけない大事なモノが自分の中にきっとある。
今回、それを見つけ出したいですね。


  梁 鐘譽 ヤン・ジョンエ
1975年韓国釜山生まれ。幼少期より韓国舞踊を習い、韓国慶星大学大学院舞踊教育学修士課程修了。同大学舞踊学科客員教授を経て、2009年「大駱駝艦」入艦、麿赤兒に師事。以降、大駱駝艦全公演に出演。2013年『ヨウヤヨウヤ』発表。NHKラジオハングル講座や映画・PV等に出演、幅広く活動中。
       
    梁鐘譽ソロ作品
『三道農楽カラク』

<ダンスがみたい!21 「三道農楽カラク」を踊る。 >
参加作品
7月26日(金) 開演19:30(開場は1時間前)
会場:d-倉庫(荒川区東日暮里6-19-7 )
前売り3000円(学生2500円)
当日3500円(学生3000円)
予約・問い合わせ 
d-倉庫
03(5811)5399 月曜定休 18:00~23:00
http://www.d-1986.com/d21/

ダブルビル上演:Lee Jung In Creation『三道農楽カラク』